【ホテルブランディング事例】「Reset Journey」がはじまる場所

2025.10.20

#KITAHIROSHIMA NEVER END LEO#ブランディング#ロゴデザイン#WEBデザイン

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本記事では、弊社が担当した新規ホテルのブランディング案件を、実際の制作フローに沿ってご紹介します。
対象は北海道・北広島市で2024年6月にオープンした全7室の小規模ラグジュアリーホテル「KITAHIROSHIMA NEVER END LEO」。当初は「Webサイト制作」のご依頼でしたが、進行する中でフレームワークを用いた分析を起点に、ペルソナの設計、ブランドコンセプトの策定、そしてロゴ開発へと展開し、最終的にはブランド全体を構築する包括的なプロジェクトへと発展しました。

本記事が、ブランディングをご検討中の企業担当者の皆さまにとって、案件の進め方や押さえるべきポイントを理解する一助となれば幸いです。

1. お問い合わせ ― きっかけは一通のご相談から

2023年4月のある日、弊社に届いたのは、北海道・北広島市で新たにホテル事業を計画されていたオーナー様からの一通のご相談でした。

内容は「Webサイトを制作してほしい」というもの。このお問い合わせが、のちにブランド全体を形づくるプロジェクトの出発点となりました。

お話を伺うと、ホテルはまだ建設前の段階で、ロゴマークもWebサイトも存在しない、まさに“真っさら”な状態。ブランドとしての目に見える要素は何ひとつ整っていませんでした。しかしその一方で、建築家の選定や施設構成などはすでに動き始めており、オーナー様の中には明確な構想と熱い想いがありました。ホテルという場所をどのように育てたいのか、誰の心に残る空間にしたいのか。その核となるビジョンが、すでにしっかりと存在していたのです。私たちは初回の打ち合わせを通じて、このご依頼が単なるWebサイト制作にはとどまらないことを確信しました。

デザインを整えるだけでなく、ホテルというブランドそのものをゼロから築き上げていく。そんな挑戦の始まりを、この一通の問い合わせが告げていました。

ホテルのイメージパースCG
ホテルのイメージパースCG
建設地の様子(2023/7/19)
建設地の様子(2023/7/19)

2. 初回お打ち合わせ ― ツール制作からブランド設計へ

初回のお打ち合わせでは、まずオーナー様が思い描くホテルの姿や、そこに込められた想い、そして将来的にどのような価値を提供したいかという構想を丁寧に伺いました。

その上で当社からお伝えしたのは、このプロジェクトを単なる「ツール制作」にとどめるべきではないということでした。Webサイトやロゴといった“目に見える形”を整える前に、ホテルというブランドがどんな存在であるべきか、その「芯」を見極めることが最も重要だと考えたのです。

ホテルがどのようなお客様に選ばれ、滞在を通じてどんな体験や価値を届けたいのか。この“核”を明らかにしなければ、どれほど美しいデザインをつくっても一時的な印象に留まってしまいます。逆に、そのブランドの方向性を言語化できれば、Webサイトやロゴはその考えを体現する「一貫した表現」となり、長く愛される資産として機能します。

また、ブランディングデザインを手がける私たちの役割は、単にビジュアルを整えることではなく、クライアントの想いを社会に伝わる“価値のかたち”へと翻訳し、表現することにあります。そうした観点からも、まずはブランドの基盤を共有し、根幹を築く段階から共に取り組むことをご提案しました。

オーナー様にもその考えに深くご理解をいただき、「ブランドの芯を共に作り上げていく」という合意のもと、ここから本格的な共創プロジェクトが動き出しました。

3.  お見積り ― 現実的なバランスを見極めたご提案

お見積りを作成する際、弊社が重視したのは、理想論に偏らず、実際の運用やご予算とのバランスを丁寧に見極めることでした。ブランディング案件では、ロゴやWebサイトをはじめ、調査・戦略設計・デザインなど多岐にわたる要素が関わるため、内容を盛り込みすぎるとコストやスケジュールの負担が大きくなってしまいます。そこで本プロジェクトでは、オーナー様と時間をかけて話し合いながら、各工程の重要度を整理し、現実的かつ効果的な範囲に絞り込む形で進めました。

その過程では、費用の根拠を一つひとつ確認しつつ、「どの要素がホテルのブランドづくりに直結するのか」「今すぐ必要なものと後から整備できるものをどう分けるか」といった観点を共有。加えて、工程やスケジュールの流れを明確にすることで、後の誤解や抜け漏れを防ぎながら、納品後の活用まで見据えた実行プランを描きました。

結果として、理想と現実のバランスが取れた見積りが整い、無理のない計画の中で確実に成果を出せる体制を構築。クライアントと制作側の双方が安心して進められる、信頼関係に基づいたプロジェクトの土台を築くことができました。

4.  ヒアリング・調査・分析 ― ブランドの骨格をつかむ

2023年6月、オーナー様に北海道・札幌から渋谷の弊社までご来社いただき、最初の本格的なヒアリングを行いました。ここでは、ホテル設立に至るまでの経緯や想い、建築家との出会い、土地の歴史や文化、自然環境へのこだわりなど、多岐にわたるテーマを時間をかけて丁寧に伺いました。

お話の一つひとつから伝わってきたのは、「ホテルを単なる宿泊施設ではなく、訪れた人が自分を見つめ直し、心身を整えるための“リセットの場所”にしたい」という強い願いでした。この想いこそが、後にブランド全体の方向性を決定づける原点となりました。

ヒアリングの中で感じられたのは、このホテルには“静かで穏やかでありながら、確かな力強さが宿っている”ということ。オーナー様ご自身の経験や想いの蓄積が、このホテルを形づくる大切なエネルギーとなっていることが明確に伝わってきました。だからこそ、弊社は「ブランドとは何か」を掘り下げ、その本質を見出すことからスタートする必要があると考えたのです。

ヒアリング内容を整理した後、弊社ではPEST・SWOT・3Cといったフレームワークを活用し、ブランドの立ち位置を多角的に分析しました。

PEST分析では、「コロナ規制緩和による旅行需要の回復」「ボールパーク建設による北広島エリアの注目度向上」「道内再開発による人の流れの変化」などの追い風が確認できました。一方で、円安や資材高騰、人材不足といった課題も顕在化しており、事業の“しなやかさ”を持つことの重要性も浮き彫りになりました。

SWOT分析では、「7室限定というプライベート性の高さ」「JR北広島駅東口唯一の宿泊施設」という強みが明確になりました。同時に、運営規模の小ささという弱点も整理し、地域との協業や柔軟なオペレーション設計によって補える可能性を検討しました。

3C分析では、競合施設や顧客層との比較を行い、「静けさ」「自然との調和」「建築へのこだわり」といった独自の価値が際立ちました。これにより、NEVER END LEOが“自分と向き合う静かな時間を提供する特別な場所”として位置づけられることを再確認できました。

こうして得られた分析結果は、ブランドの骨格を形成する大切な基盤となり、その後のコンセプト設計やデザイン制作における指針として機能していきました。
ヒアリングの段階でオーナー様が率直に想いを共有してくださったからこそ、ブランドの本質を的確に捉えることができた。これこそが本プロジェクトを支える原動力になったと感じています。

3C分析を行っているところ
3C分析を行っているところ

5.  戦略・コンセプト設計 ― Reset Journey へ

ヒアリングや分析を通して得られた情報をもとに、弊社ではいよいよ戦略フェーズへと進みました。最初に取り組んだのは、ターゲットをより具体的に描くためのペルソナ設計です。単に「宿泊客」という括りではなく、ライフスタイルや価値観、旅に求める目的までを掘り下げ、NEVER END LEOが“誰に響くホテルなのか”を明確にしていきました。

たとえば、「東京都在住・メーカー勤務の40代DINKs女性」は、利便性よりも心身を整える時間を大切にする層として設定しました。また、「神奈川県在住・旅行代理店勤務の30代女性」は、多くの宿泊施設を知るからこそ、“他では味わえない体験”に価値を感じるタイプとして想定。さらに「東京都在住・食品メーカー勤務の40代男性」は、仕事中心の生活の中で“静かに自分を取り戻せる時間”を求める人物像として設定しました。

これらのペルソナに共通していたのは、「便利さや価格以上に、意味ある滞在を求めている」という点でした。このインサイトを起点に、ホテルが提供すべき体験や価値を言語化するプロセスへと進みます。

ペルソナ設計を通じて浮かび上がったキーワードは、「はじまりの場所」「手の届く非日常」「新たな自分で、また日常へ」「リセット旅」など。これらは単なるキャッチコピーではなく、ブランドが発する“呼吸”のようなものであり、ホテルが届けたい世界観を象徴する言葉です。こうしたキーワードを整理・統合し、最終的に導き出されたのが、ブランドの核となるコンセプト 「Reset Journey」 でした。

“慌ただしい日常に慣れてしまった人には、「なにもしない日」が必要だと思う。
KITAHIROSHIMA NEVER END LEOには、なにもしない贅沢がある。”

このコンセプトには、訪れる人が北海道の自然や建築、音、料理、サウナといった体験を通して五感を整え、帰る頃には「行きと同じ景色が違って見える」ような、穏やかで深い変化を感じられる場所にしたいという想いが込められています。

戦略とコンセプトを明確にすることで、Webサイトや広告といった制作物はもちろん、スタッフの接客やサービス体験に至るまで、すべての接点に一貫性を持たせる“ブランドの軸”が確立されました。これが、NEVER END LEOのブランディングを支える揺るぎない基盤となったのです。

建設中の様子(2023/9/28)
建設中の様子(2023/9/28)

6.  デザイン ― ビジュアルで世界観を形に

戦略とコンセプトが明確になった段階で、いよいよデザインフェーズへと進みました。ここでは、言葉として定義したブランドの芯を、視覚的な世界観として表現することが求められます。ブランドコンセプト「Reset Journey」を、見る人が直感的に理解し、ホテル体験の入口として感じ取れるデザインに昇華させることを目指しました。

ロゴデザインは、「北」という漢字をモチーフに据え、北海道らしさを表現しながらも、NEVER END LEOが象徴する“リセットと再生”“自然と時間の循環”の物語を込めました。その構造の基盤には六角形(雪の結晶のかたち)を採用。これは北海道の風土を象徴するとともに、「調和」「繁栄」「生命の循環」を意味する形でもあります。ロゴの中央に向かって集まる4本の矢印は、「内面を見つめ直す場所」としてのホテルの在り方を示し、訪れる人々が惹かれ合い、交わる様子を象徴しています。装飾的なシンボルではなく、ホテルの理念そのものを体現する存在として設計されました。

また、Webサイトのデザインでは、ロゴを軸に構築したビジュアルアイデンティティ(VI)をもとに、静けさと温もりが共存するトーンを追求しました。訪問者がページを開いた瞬間に、ホテルの空気感や時間の流れを感じ取れるよう、「余白」を意識したレイアウトを採用。必要以上に情報を詰め込まず、写真やコピー、そして配置そのものが“整う体験”を生み出すように設計しました。画面越しであっても、見る人の心をゆるやかにリセットしていくような、そんな静かな体験を提供するWebデザインを目指しました。

モックアップ(デザイン模型)にロゴマークを落とし込んだイメージ(ご提案時のもの)
モックアップ(デザイン模型)にロゴマークを落とし込んだイメージ(ご提案時のもの)

7.  ブラッシュアップ ― 対話を重ねて完成度を高める

デザイン案の提示から最終決定に至るまでのプロセスは、クライアントと制作会社が「共にブランドを磨き上げる時間」と言えるものです。今回のロゴ制作では、初回に20案を提示し、その中から候補を絞り込みながら、オーナー様と何度も意見交換を重ねました。各案にはコンセプトや背景を込めていましたが、実際にオーナー様の感覚とすり合わせていく中で、新たな気づきや方向性が次々と生まれていきました。

その過程で印象的だったのは、オーナー様から「2つの案の要素を組み合わせてみたい」というご提案をいただいた場面です。一見すると難易度の高いリクエストにも思えましたが、私たちはその意図を慎重に受け止め、双方の強みを活かす形で新たなアレンジを試みました。結果として、従来の案にはなかった独自性と深みが加わり、ホテルの理念をより的確に体現した最終案に辿り着くことができました。

このように、制作の過程ではお互いが率直に意見を交わし、違和感や疑問をそのままにせず共有することが大切です。デザインに対する専門知識の有無に関わらず、クライアントの感覚や言葉の中には、ブランドの本質を導き出す重要なヒントが多く含まれています。だからこそ、「意見してもいいのだろうか」と遠慮する必要はありません。むしろそうした対話の積み重ねこそが、信頼関係を育み、より完成度の高い成果物を生み出す原動力になります。

今回のブラッシュアップを通じて感じたのは、ブランドを築くプロセスとは、単に“形を整える”作業ではなく、“価値を共有しながら共に成長させる時間”そのものであるということ。対話を重ねるたびに、ブランドの輪郭が少しずつ明確になっていく──そんな実感を得たフェーズでした。

ロゴマークデザイン
ロゴマークデザイン
Webサイトデザイン
Webサイトデザイン

9.  ご納品 ― ブランドは“ここから”育っていく

完成したWebサイトとロゴをご納品し、ひとつの区切りを迎えました。
しかし、私たちが常にお伝えしているのは「ここがゴールではない」ということです。ブランディングは制作物を納めた時点で完結するものではなく、むしろそこからが“本当のスタート”だと考えています。

ホテルが実際にオープンすれば、訪れるお客様はそれぞれの体験を通じてブランドを感じ取り、写真を撮り、SNSや口コミで発信していきます。そうしたお客様一人ひとりの行動が、ブランドを少しずつ成長させる要素となり、やがて想定を超えた新しい共感や評価を生み出していきます。ブランドは紙面や画面上のデザインだけで存在するものではなく、人々の体験によって初めて“生きた存在”として社会に根づいていくのです。

NEVER END LEOがオープンしてからの時間は、まさにその成長の始まりでした。宿泊したゲストがWebサイトの「Backstory」に共感し、滞在を通じて感じたことをSNS等で語ってくださる姿は、「選ばれるホテル」から「語られるホテル」へと進化している証といえます。お客様の発信が新たな来訪者を呼び、ブランドが自らの手で育っていく循環が生まれつつあります。

2024年6月のプレオープンイベントにあわせ、来場者に配布いただくために自主制作したコンセプトブック
2024年6月のプレオープンイベントにあわせ、
来場者に配布いただくために自主制作したコンセプトブック

また、このホテルが特に特徴的なのは、“地域との共創”という視点を持っていることです。建築家・小西彦仁氏による自然との調和を意識した建築デザイン、地元食材を活かしたレストランmogの料理、そして今後予定されている地域大学との連携や地元アーティストによる体験型イベントなど、それぞれが「この土地である意味」を体現し、ブランドの世界観をより豊かにしています。こうした地域との結びつきが、ブランドに深みと持続性をもたらしています。

ブランディングにおいて大切なのは「一貫性」と「進化性」の両立です。ブランドの核となるコンセプトを守りながらも、時代やお客様の感性の変化を受け入れ、しなやかに育っていくこと。それこそが持続可能なブランドの姿だと、私たちは考えています。NEVER END LEOは、まさにその理想を体現するホテルとして歩みを進めています。

私たちは、この場所が訪れる人々にとって「自分を整える時間」であり、「次の旅へと踏み出す準備期間」となることを願っています。
静けさの中にある強さ、余白の中に宿る意味。その体験を通じて、ゲスト一人ひとりが“自分の旅”を再び歩み出せる。
ご納品を終えた今も、NEVER END LEOというブランドは、確かに生き続け、静かにその物語を育てています。

2階の全客室から、夕張山地の稜線と日の出が眺められる
2階の全客室から、夕張山地の稜線と日の出が眺められる

クライアントの声

最後に、ホテルオーナー様からいただいたコメントをご紹介します。
「レベルフォーデザインさんとのやり取りは終始スムーズで、気持ちよく進められました。完成後に『頼んでよかった』と心から思いました。これからも地域とともに、人と人の心をつなぐ場所として成長していきたいと思います。」

まとめ

本事例からわかるのは、Webサイトやロゴといった“成果物”は、ブランディングのごく一部にすぎないということです。その背後には、企業やサービスが「社会の中でどう存在するか」「人々にどんな体験を提供するか」を設計する、いわば“ブランドの芯をつくるプロセス”が存在します。

お問い合わせからご納品に至るまでの8つのフェーズを経て、お客様の想いを社会に届ける。この一連のプロセスこそが、私たちが考えるブランディングデザインの本質です。デザインとは単なる装飾や表現ではなく、心と身体に作用する体験を生み出し、人と場所、人と社会をつなぐための設計だと私たちは考えています。

NEVER END LEOのプロジェクトを通して改めて感じたのは、「こんな場所があったらいいな」という想いが、地域の魅力と重なり、建築やデザインを通じて“人の心を動かすブランド”へと成長していくことの力強さでした。そのプロセスには、クリエイティブの持つ確かな力が息づいています。

私たちはこれからも、お客様やそのサービス・プロダクトが持つ“らしさ”を丁寧に引き出し、デザインとアイデアの力でその魅力を可視化し、社会とつなげていく。そんなブランド設計のパートナーであり続けたいと考えています。

ゆったりとした時間を過ごせるスイートルーム
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