企業の本質を社内に広げるためのインナーブランディング
公開日2025.10.21 更新日2025.10.30
#ブランディング#インナーブランディング#アウターブランディング
「インナーブランディング」という言葉をご存知でしょうか。「ブランディングと何が違うの?」「ブランディングでさえよくわからないのに…」恐らくこのように考える方がほとんどだと思います。
インナーブランディングとは「すべての従業員・社内関係者に企業哲学(想い)を浸透させ、ブランドの価値を理解し、共感・共有する状態をつくること」。簡単に言うと「社内のみんなに、会社や自社ブランドをちゃんと好き(ファン)になってもらう」ということになります。 いずれにしても、そもそもブランディングについてわかっていなければ、インナーブランディングや、社外に向けて行うアウターブランディングについて理解できるはずがないので、まずは簡単に説明したいと思います。
L4Dが考えるブランディングとは
言葉としてはずいぶんと一般化してきた「ブランディング」ですが、まだまだ間違った認識をされているケースが多いように見受けられます。
ブランディングに対するよくある勘違いは、例えば企業であれば、新しいロゴをつくって、耳障りのいいメッセージだけを一方的に発信するというようなもの。もちろんロゴの刷新や、メッセージを掲げることもブランディングにおいて必要なことではありますが、あくまでもブランドを構成するひとつの要素であり、そのことだけでブランディングが成立するものではありません。
レベルフォーデザインが考えるブランディングとは「『らしさ』を価値へと変えてファンになってもらうこと」と定義しています。その企業が創業より持っているはずの「想い」や「志」といった哲学や理念、社内に根づく価値観や文化といったものを発見し、磨きをかけて独自の価値「らしさ」とすることで差異化する。そしてその「らしさ」に対し共感や信頼を得ることでファンになってもらうということです。
ちなみに「差異化」とは、他のものと比較をして優劣をつける「差別化」と違い、あくまでもブランドの独自性にフォーカスをすることでその価値を高め、顧客の感情に訴えかけることを言います。
このようにブランディングとは、決して目に見える体裁を整えることだけではなく、見つけて磨いた企業の「想い」と、ステークホルダーの「想い」とを、心から愛着を持ってもらうために「つなぐ」ことなのだと考えます。
そしてアウターブランディングは、顧客や投資家といった社外のステークホルダーに向けて、認知向上やブランドイメージの定着を目指して行う広告やプロモーション、製品やサービス開発等のコミュニケーションのことを言います。
このようにブランディングは、社内に向けたインナーブランディングと、社外に向けたアウターブランディングという、大きく分けて二つのコミュニケーションによって構成されているのです。
全ての社員が同じ未来を目指して漕ぎ出す
前述のとおりインナーブランディングとは「すべての従業員・社内関係者に企業哲学(想い)を浸透させ、ブランドの価値を理解し、共感・共有する状態をつくること」と定義しました。人によっては、そんなことは企業にとって当たり前ではないかと思うかもしれません。ではなぜあらためて、社内に向けたブランディングが必要なのでしょうか。それはこの当たり前と思われている、企業や商品にとって絶対的になくてはならない条件を満たしていないケースが、実際にはとても多く見られるからです。
ブランディングが効果を発揮するためには、社外に向けて発信するだけでは不十分です。まずは社内において理解と共感・共有を得ることが欠かせません。社内でブランドに対する想いを共有できていない社員がいたり、ブランドが提供する価値を理解できていないスタッフがいたとしたら、社外に伝わるブランドの「らしさ」が間違ったカタチで伝わってしまうかもしれません。そもそも企業経営の核となる「想い」に対して、全ての社員が同じように理解していなければ、本当に良い商品をつくることはできませんし、心からのサービスを提供することはできないと思います。
インナーブランディングとは、船を漕ぎ出す前に「まずは自分たちの会社のこと、商品のことを、みんなで同じように理解して好きになりましょう。そしてみんなで想いを共有して、同じ目的地(未来)を目指しましょう。」ということだと思います。企業経営や商品開発において、それらを正しい方向に進めるために絶対に必要なことなのです。
インナーブランディングはなぜ必要なのか
インナーブランディングの概要がなんとなく見えてきたところで、その目的、なぜ必要なのかということをもう少し詳しく見ていきましょう。
インナーブランディングの目的はいくつかありますが、なかでも特に大切だと考えるのが「社員のエンゲージメント向上」です。言うまでもなく、企業というブランドをつくっているのは一人ひとりの社員です。もちろん新たな商品やサービスを生み出すことも社員の力なしにはあり得ません。大切なのはすべての社員が企業の理念・想いに共感し、自らがブランドの価値を創出していると感じながら、自分ごととして行動すること。社員一人ひとりが、主体性を持ってブランドを体現することが必要なのです。まずは企業(経営者)と社員が目標を共有しながら、互いに信頼し合える関係を築くことが大切であると考えます。
さらにエンゲージメントの向上は、社員のモチベーションを高めることにもなります。「自分の仕事がブランドをつくっている」と感じることが、一人ひとりの社員が自分の仕事に誇りを持って取り組むことにつながるはずです。
「ブランドの一貫性を保持すること」も大切な目的のひとつです。社員それぞれによって、会社や商品に対するイメージがバラバラだったとしたらどうなるでしょうか。顧客をはじめとする社外へのコミュニケーションも当然のように一貫性を失ってしまうことで、ブランドの価値が正しく伝わらなくなってしまいます。例えばどれだけ世間から注目を集めるような広告やプロモーションを行ったとしても、実際の商品やサービス、顧客体験との間に乖離があれば、お客様の満足度低下と同時に気持ちも離れていってしまうでしょう。間違ったブランドイメージを伝えてしまうことは、ブランドの価値を下げるだけでなく、顧客からの信頼を失うことにも直結します。だからこそすべての社員・スタッフが、企業や商品のイメージと価値を正しく理解し、体現することが重要なのです。
このようにブランドの一貫性を保持することは、どのようなタッチポイントにおいてもブランド体験の質を安定させることになり、結果的に顧客からの評価にもつながります。またブランド体験を体系化することで、顧客に対し再現性のあるものとして安定的に提供することが可能となり、顧客の満足度を向上させることにもなります。
さらにインナーブランディングによってこれらの目的を達成することは、企業の風土や文化の醸成にもつながります。想いを起点としてつくられた企業文化は、他のどの企業とも違う唯一無二のものとして、ブランドの貴重な資産となって長く受け継がれていくものとなるでしょう。
トップダウンで進める方法は一見効率的に思えるかもしれませんが、すでにエンゲージメントの高い組織でない限り、この方法では一部の社員から反発が起こり、結果として信頼関係が破綻してしまうことになりかねません。
進め方として簡単に例を挙げると、はじめに社長と役員にインタビューを行い、想いとともに歩んできた会社の歴史や未来に向けた考えを自らの言葉で語ってもらいます。同時に各部署から集めたメンバーによるプロジェクトチームを立ち上げ、インタビューによって得られた想いをもとに、様々なワークショップによって会社の過去・現在・未来についてディスカッションを重ねていきます。その見解をまとめながら、ビジョンやミッションとして言語化。場合によってイラスト等のキービジュアルを作成することで、より伝わりやすいかたちとして構築をします。
次にブランドの「らしさ」を可視化する「ビジュアル・アイデンティティ」や、企業理念の理解や浸透のための「ビヘイビア・アイデンティティ」の開発フェーズとして、理念を掲げた社内掲示用ポスター、ビジョンブックやクレドカードといったツールの活用や、定期的な勉強会や研修等を行います。これによって、策定した企業理念の浸透を進めながら、さらに理念を自分ごととして感じてもらうことを目指します。
理念が浸透してブランドへの理解が進めば、ブランドの一貫性の保持を強化することができます。さらにすべての社員がさまざまな施策に参加したりツールを活用することで、理念の自分ごと化が進み、結果としてエンゲージメントの向上を促進します。このように全員参加を前提に正しいステップを踏むことで、インナーブランディングの目的を達成することができるのです。
インナーブランディングこそが本質
インナーブランディングの大切さが、少しは理解できたかと思います。では最後に、もしもインナーブランディングをすることなくアウターブランディングを行ったとしたら、その企業や商品はどうなるでしょうか。
前述の船の例えにもあったように、社員一人ひとりや個々の部署が、それぞれ勝手な思い込みで行動を始めるとします。ある社員は、自らの判断で自社事業と関係のない流行りの新商品を企画する。ある部署は、部長の号令のもと売上必達を最優先として目指す。そして工場では、製品のクオリティを落としてコスト削減に取り組む。一見すると、それぞれ会社のためにとった行動で、正しいことのように思えるかもしれません。
ですがどうでしょう。世の中で流行っているからと、自社のビジネスと関係がなくノウハウもまったくない商品を考えて売れるでしょうか。勝手な戦略で売上げだけを目指して目標が達成できるでしょうか。クオリティの低い製品をお客様が喜んでくれるでしょうか。恐らくは難しいと思います。仮に上手くいったとしても、継続的に成果を上げることは厳しいのではないでしょうか。 理念も哲学もなにもない。理念があったとしても、その想いが社内で共有ができていない。こんな状況では、ブランディングどころか経営自体がきっと行き詰まってしまいます。だからこそインナーブランディングが必要なのです。
はじめにも言いましたが、間違った解釈でブランディングに取り組む企業によっては、インナーブランディングを行わずに、対外的にわかりやすく映るアウターブランディングのみを実施してブランディングを遂行したとする企業が多く存在します。そんな企業の多くがきっと「ブランディングの効果はなかった」などと言うのではないでしょうか。もちろんブランディングの効果は100%保証されるものではありません。ですがインナーブランディングを実施しなければ、どれだけの費用と時間、労力をかけてブランディングに取り組んだとしても、その効果を期待することはできないと思います。なぜならそれは、インナーブランディングこそがブランディングの核であり、本質だからです。だからこそ、企業の「想い」を起点としたブランディングをその内側からスタートさせることが、正しい結果につながっていくのだと思います。
クオリティの高い商品や顧客満足度の高いサービスの提供は当たり前。いまや企業の本質的な価値が問われています。さらにその本質を見極めているのは企業の外側の顧客だけでなく、内側にいる社員やスタッフにもその価値が試されている。だからこそ、まずはじめに取り組むべきはインナーブランディングです。
レベルフォーデザインでは「想い」の言語化から理念の構築、そして社内への浸透まで、一貫したインナーブランディングをサポート。もちろんアウターブランディングを含むブランディング全体もトータルでお手伝いいたします。「わからない」「難しい」と疑問を持ったことが、すでにブランディングへの第一歩です。ぜひその小さな疑問と、未来への大きな「想い」をぜひお聞かせください。